サイエンスワールド展示用架台の製作
2004年3月15日公開 by kawai
ここで紹介するファイバートラッカーはフェルミ研究所(米国)で行なったτニュートリノ直接検出実験DONUT(E872)で実際に使ったものを、岐阜県瑞浪のサイエンスワールドに常設展示するための架台と、贈呈式を紹介します。
このファイバートラッカーは、プラスチックのシンチレーションファイバーを精度よくならべたもので、私たち名古屋大学の研究室と技術職員のアイディアと技術を集め、すべて手作りでによって完成したものです。
サイエンスワールドにおけるこの展示は新しいテーマになっており、現在使われていません。(2005年10月4日 河合)
展示用架台の現地組み立て
τニュートリノの検出実験で活躍したファイバートラッカーを、理科教育に役立てようということで、サイエンスワールドに常設展示されることとなり、急遽、展示用の架台を作ることとなりました。
この架台の製作に課せられた課題は以下の通りです。
- 参観者がファイバートラッカーの全貌を確認できること
- 参観者の安全を保つこと
- ファイバートラッカーを水平および垂直の位置に保つこと
- ファイバートラッカーの角度変更作業が安全におこなえること
- 必要最小限の費用におさえること
架台の設計は何回かやり直した結果、何とかサイエンスワールドの承認をいただき、架台の製作へと進むことができました。
設置方法は、床に大きな板を敷いてその板と架台を固定するという方法で十分な強度が得られました。
以下は、設置工事及び現地組立時の写真です。
写真 1、床板と架台の脚の固定 | 写真 2、回転軸の調整 | 写真 3、本体の据え付け |
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写真 4、電気系統の調整 | 写真 5、完成したSFTの前で |
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名古屋大学での仮組作業
この架台は名古屋大学において仮組・調整を行いました。その模様を紹介します。
このような大きな装置の仮組作業を展開できる場所は大学のなかでも限られています。
広い工場と天井走行クレーンの設置は私たちがこのような作業を遂行する上ではなくてはならない設備ですが、残念ながら理学部にはありません。幸いなことに、旧核融合研究所の建物を使うことができたので、何とか作業を進めることができました。
写真 6、仮組の完成 | 写真7、フリクション調整機構 | 写真8、回転軸の固定機構 |
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回転軸の機構では水平と垂直が自由に変えられなければなりません。
この装置の重さはファイバーのみで100Kg程度あり、IIT(イメージ・インテンシファイアー)と取り付け用の枠を含めると300Kgにも達します。こうしたものを回転させるには、回転中心と重心を一致させる必要があります。
私はこれを三次元CADシステムによって求めました。
三次元CADによって求めたファイバートラッカーの重心に回転軸を配置することによって、この装置は水平から垂直に至まで、安定した回転操作を行うことができるようになりましたが、実際には完全に回転軸と重心を一致させることはできず、カウンターウエイトを若干使って調整しました。
この装置は慣性モーメントが大きいので、一方の軸に摩擦式のブレーキ(写真7参照)を配置し、慣性でストッパーに衝突するのを防いでいます。
写真8のように、丁度垂直に立てた状態でピンを入れるような設計にしました。このような動作を簡便且つ安全に行うには、ストッパーとピンを用いると便利です。
贈呈式と展示の紹介
贈呈式は岐阜県下の高校生らが招かれ、山之内先生(米国フェルミ研究所の副所長)と丹羽先生(名古屋大学教授・タウニュートリノ検出実験)の特別講演もあり、テープカットもありました。
フェルミ研究所での設置作業では山之内先生にわざわざ技術関係の施設を案内していただき、たいへん感激しました。
写真 9、テープカット | 写真 10、山之内先生と一緒に |
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この他にも、ニュートリノ実験のために名古屋大学が開発した様々な観測装置をサイエンスワールドに展示しました。
ここでは、タウ・ニュートリノ直接検出実験で中心的に活躍した原子核乾板とSFT(シンチレーション・ファイバー・トラッカー)の本物をフェルミ研究所から持ち帰り、展示した他、本物の素粒子飛跡が記録されている原子核乾板とそれを見るための顕微鏡や、ファイバートラッカーを製作するために作ったドラムなど、正にこの実験のために私たちが作ってきた装置のほとんどがここにあります。
写真 11、ファイバートラッカーとドラム | 写真 12、原子核乾板のケース | 写真13、素粒子飛跡を見る顕微鏡 |
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