NMR-C



はじめに

 NMR用プローブは現在井上の設計・製作により4セット製作され実用段階にある。(NMRの原理、測定方法等の詳細は白岡氏の報告を参照)  このプローブは一台につき可変容量型のコンデンサを2個使用している。当初このコンデンサには可変容量型のガラスコンデンサを使用していたが、液体ヘリウム温度下での使用に耐えられずガラス部分が破損した。そのため応急的な処置として破損したガラス部分をアクリル樹脂で製作した部品に置き換える対策を行っていた。しかし、対策したコンデンサは容量が減少し、実験で使用できる周波数範囲が狭くなった。今回これらの問題点を解決するため、ガラスコンデンサと同等以上の容量を持ち、液体ヘリウム温度下での使用に耐えられる可変容量型コンデンサの開発を行うことにした。


コンデンサ

  1. コンデンサの構造

     図1は左にコンデンサのカット図を、右に今回製作したコンデンサの分解写真を示している。今回製作した部分は誘電体と固定電極であり、移動電極を含む部分はガラスコンデンサからの流用部品である。移動電極は回転軸を回転させることにより誘電体を挟んで外側にある固定電極とのオーバーラップ量を変化させる。こうしてコンデンサの容量を変化させることができる。


    図1.コンデンサの構造

  2. コンデンサ容量の計算

     今回製作するコンデンサは移動電極を持っているため移動電極と誘電体間に電極を滑らせるための隙間が必要となる。これらを考慮した円筒型可変容量コンデンサの容量は次の式で表される。

    Co=2πε0 L / {log(b/a)+1 /εr・log(c/b)}・・・・・・(1)

    ε0:真空の誘電率(8.855×10-12)、εr: 比誘電率、L:電極長、a:移動電極半径、b:空気層外側半径、c:外側電極半径


  3. 移動電極と誘電体の間隔が容量に与える影響

     電極間距離一定(0.635mm)とした時の誘電体が持つ比誘電率の違いによるコンデンサ容量の違い(図2)と、比誘電率一定(8.2)とした時の電極間距離の違いによるコンデンサ容量の違い(図3)を2.2の(1)式より求めそれぞれグラフにした。
    この計算結果から誘電体の比誘電率が大きいほど(図2)、また移動電極と固定電極の電極間距離が小さいほど(図3)移動電極と誘電体間の隙間の大きさがコンデンサ容量に大きな影響を与えることがわかる。


図2.電極間距離一定


図3.比誘電率一定


開発方針

  1. コンデンサの容量を大きくする


     ただし今回の製作ではこれまでに製作したプローブ内にセットして使用するため外形寸法は当初使用していたガラスコンデンサと同等とし、且つガラスコンデンサの移動電極を流用することから、電極面積を大きくする方法については検討を加えなかった。

  2. 液体ヘリウム温度下での使用に耐えられるようにする

     これは誘電体と電極の熱膨張係数などを考慮し設計する必要がある。さらに液体ヘリウム温度下での誘電体の比誘電率の変化や周波数特性の変化等も考慮する必要がある。


測定と結果

  1. 材料別の比誘電率とコンデンサ容量の測定

     低温で使用実績があり入手が比較的容易な材料の中から比誘電率の大きな材料を探すことにした。測定方法はφ28.5mmの真鍮電極の間に均一な厚さの被測定物を隙間なく挟み、その厚みと100kHzのときの容量をキャパシタメータにより測定し、それらの値から計算により比誘電率を求めた。

    材料名比誘電率εr文献より
    布ベーク(フェノール)8.2 @100kHz5.1~9.9
    ポリフッ化ビニリデン (PVDF) 6@1MHz
    スタイキャスト2850GT6.9 @100kHz5.9@1MHz
    スタイキャスト2850FT6.8 @100kHz5.9@1MHz
    1266+BaTiO3 (20w%)6.4 @100kHz 
    紙ベーク(フェノール)6.3 @100kHz5.1~9.9
    スタイキャスト12665.3 @100kHz3@1MHz
    アクリル (PMMA)4.4 @100kHz2.5@1MHz

    図4 材料別の比誘電率

  2. 結果

     文献の値に比べいずれも若干大きいが、良くその傾向を示していると考えられる。(図4)

     文献では1MHz時の値を示しているが、今回の測定では測定器の測定上限により100KHz時の測定となっている。

    材料名容量(pF)
    アクリル11.4pF
    PVDF14.3pF
    1266+BaTiO3 (20w%)15.3pF
    2850GT *120.1pF
    布ベーク18.8pF
    *1 内側電極と誘電体の隙間が他のものに比べて小さい(φ5.5に対してφ5.3)
    図5 コンデンサ容量

     この実験結果と文献値を参考に比誘電率の大きかった、布ベーク、2850GT、1266+BaTiO3(チタン酸バリウム)、PVDFの各材料でそれぞれコンデンサの誘電体部分を製作し、その最大容量を測定した。この時、外側電極と誘電体間の隙間をなくすために充填材として1266+BaTiO3(20w%)を使用した。
     この結果から比誘電率の大きな材料ほどそれに比例してコンデンサ容量が大きくなることが実験的に確認できた。(図5)

  3. 同調実験

     実際のNMR用プローブに製作したコンデンサを搭載し常温、大気中で同調が取れる周波数範囲の測定を行った。
    測定にはアクリル、布ベーク、PVDFで製作したコンデンサを用いた。

  4. 結果

     容量の大きなコンデンサほど、より低い周波数まで同調が取れる周波数範囲が広がる事がわかった。(図6)
     しかし高い周波数側では有意な差が見られなかった。これは高い周波数側には最小容量が影響するためである。
     実際にこの測定に使用したコンデンサの最小容量はいずれも2pF程度あり、且つ同調回路中に存在するフランジとそこを通過するリード線との間に容量が4pF程度あることが確認されており、これらの容量が高い周波数側に影響を与えていると考えられる。


    図6.同調周波数範囲

まとめ

 当初の目標であったガラスコンデンサと同等以上の容量を持ち、液体ヘリウム温度下での使用に耐えられる可変容量型コンデンサを開発するには今回至らなかったが理論と実験から以下のことが確認でき、開発の目処を得た。

今後の課題

 以下の事項が課題として残った。

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