ワイヤーグリッドの製作

最新更新履歴:2004年3月22日、偏波特性の測定結果(速報)を掲載


 ワイヤーグリッド(以後、WGと省略します)は開放伝送系の偏波素子です。このページはWGの製作についての技術開発に関わる問題を紹介します。
最新版(2003年6月)では、100GHz帯(線径50μm、間隔150μm)、有効径120mmで、間隔エラーσ=8μmを実現しています。このことから、100GHz帯では技術的に十分達成されていると考えています。
 現在、400GHz帯のWG(線径20μm、間隔60μm)間隔エラーσを6μm以下におき、試作を行なっています。

サブミリ波帯ワイヤグリッド作ります!

 偏波特性を測定した結果、線径20μm、間隔60μm、σ〜15μm のワイヤグリッドで、100GHZ〜1000GHZまでの偏波特性は良好でした。従って、この方法によるワイヤグリッドはサブミリ波帯において十分実用になると思われます。
 そこで、しばらくの間、各大学や研究所、天文台の関係者にサービスを行いたいと思います。サブミリ波帯ワイヤグリッドの必要な方は枠のサイズ等の図面データをいただければ、実費にて製作致します。当面、最大有効径=140mmまで製作かのうですので、河合までご連絡下さい。 なお、製作には他の業務との関連で多少の時間をいただきますと共に、使用環境、周波数帯域、性能評価、実際にインストールした部分の写真などのレポートをお願いします。

ワイヤー巻き取り機(2003年6月) サブミリ波帯WG(2003年10月) サブミリ波帯WGの間隔の精度 偏波特性速報(2004年3月)

 WGは金属の線を規則正しく並べたもので、電磁波の水平偏波と垂直偏波を効率よく弁別する素子です。
 物理金工室が開発したWGはミリ波帯では十分な性能を持っていることが確かめられており、短ミリ波帯の試作も行ないました。
 私たちが開発しているWGは、「なんてん」望遠鏡、富士山望遠鏡、野辺山45メートル鏡、ASTE、ALMA等をはじめ国内外の多くの電波望遠鏡光学系で使用することを目的としています。

  1. サブミリ波フーリエ分光光度計による偏波測定−速報−(最新情報)
  2. サブミリ波用WGの試作−その3
  3. サブミリ波用WGの試作−その2
  4. WGとは
  5. WGの作り方
  6. WG製作方法の変遷
  7. 問題点の整理
  8. サブミリ波用WGの試作−その1−
  9. WG巻き取り機の製作
  10. WG巻き取り機の試運転
  11. 偏波特性の測定
  12. 接着剤のスタディ
  13. ワイヤー繰り出し機構の改善
  14. 接着用治具の改善

 関連サイト

  1. 金工室の仕事の紹介に戻ります

このページについてのご意見はkawai@ufp.phys.nagoya-u.ac.jpまで



偏波特性の測定(速報)


 天文台にてワイヤグリッドの偏波特性を測定しました。たくさんのデータが得られたので詳細な分析はこれからですが、大雑把な解析をおこなったので報告します。

測定方法

  • サブミリ波フーリエ分光光度計(マーチンパープレット偏光干渉計)を使用する
    この分光光度計は検出器の性能から、100GHz〜1000GHzの帯域をカバーしている
  • 平行ビームラインにWGを2枚挿入する
    基準のWGに対し、被測定側WGの角度を、0°と90°に置き、透過エネルギーを測定する
  • WGの間隔精度と偏波特性の相関を調べるため、精度の異なるものを被測定側に置き、上記の測定を行う
 今回の測定では上記の他に、角度による透過率の変化、反射波のエネルギ−測定など、非常に多くのデータを得ることができました。
 とりあえず、ワイヤ径の異なるWGの偏波特性を掲載します。この他の解析にはもう少し時間がかかりますが順次掲載していきます。

測定結果の速報!

  • a=20μm、d=60μm、σ〜15μm のWGは、100〜1000GHzで十分な偏波特性を確認!
  • 隣と接触しているようなものは特性劣化甚だしい
  • ワイヤー径と間隔の方が帯域幅に影響大

フーリエ分光光度計 WG挿入部分 測定の様子 偏波特性速報(2004年3月)

 偏波特性速報の見方について説明します。
 フーリエ分光光度計の平行ビームライン上に、リファレンスのワイヤグリッド(前)と被測定ワイヤグリッド(後ろ)を置き、双方のワイヤグリッドの向きが@平行A直交B45°傾斜における検出器出力を測定しました。@平行では透過、A直交では反射を見たことになります。
 リファレンスのワイヤグリッドは線径20μm、間隔60μm、誤差σ〜8μmを用い、重なるように被測定ワイヤグリッドを配置します。
 縦軸の透過率は、リファレンスワイヤグリッドだけの場合を100%として、被測定ワイヤグリッドを交換しながら検出器に到達するエネルギーの比をあらわしています。
 横軸のWavenumber[cm-1]は1cmの中に波がいくつあるかを表すもので、分光測定によく使う単位です。この場合、Wavenumber[cm-1]=30の所で1000GHzとなります。
 Wavenumber[cm-1]の少ないところで透過率が乱れている(100%を超えている)のはエネルギー測定用検出器の感度が長い波長帯域で不安定になっていることを示しています。従って、この測定で信頼できるのは周波数で150GHZから1500GHZの領域であると考えられます。
 グラフの線の色と被測定ワイヤグリッドの関係は以下の通りです。

グラフの色ワイヤグリッドの仕様配置角度
線径20μm、間隔60μm平行(透過)
線径15μm、間隔46μm平行(透過)
線径50μm、間隔150μm平行(透過)
線径20μm、間隔60μm45°(傾斜)
線径20μm、間隔60μm直交(反射)
線径15μm、間隔46μm直交(反射)
群青線径50μm、間隔150μm直交(反射)

 以上のグラフから、線径20μm、間隔60μmのワイヤグリッドは150GHz〜1000GHZの帯域で十分性能を発揮していると結論できます。
 ワイヤグリッドが最もよく使われるのはマーチンパープレット分光計などの45°傾いた面での反射と透過です。今回この測定も行っていますので、現在詳しい解析を行っている最中です。
 サブミリ波帯の受信機は4Kに冷却していますので、ワイヤグリッドも4Kに冷却されます。ALMA等の受信機で使ってもらうには、低温で十分に使えることを証明する必要があるので、今後、低温環境での偏波特性測定は不可避です。


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ワイヤーグリッドとは



 ワイヤーグリッドの構造を左に示します。
 ワイヤーグリッドは細い金属線を規則正しく並べたものです。
この図のように、ワイヤーに平行な偏波成分は反射し、
垂直な成分は透過します。

 ワイヤーグリッドのこうした性質を利用して、偏波分離をはじめ、
LO供給、偏波を用いた周波数分別やサイドバンド除去フィルタ等
に用いられます。





 この図は、電磁波の波長λとワイヤー間隔aの比と、
ワイヤー間隔aとワイヤー直径dの比による弁別性能を表したもです。
 縦軸は減衰量、横軸はワイヤー間隔aとワイヤー直径dの比です。

 この図から、グリッド間隔は波長の4分の1以下、
ワイヤ径は10分の1以下である必要があり、
サブミリ波用のワイヤーグリッドはミクロンオーダーの
高い機械精度が必要であることがわかります。


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ワイヤーグリッドの作り方(概要)


 私は、100GHz帯のワイヤーグリッドを、汎用旋盤を用いて作る技術を確立しました。

 下の写真のように、凧糸を巻くような治具(巻き枠)を作り、そこに金属線を正確な間隔で巻いていきます。この間隔は旋盤のねじ切り機構による送りを用いています。
 開発当初(1990年〜)は、巻き枠の棒に間隔と同じピッチの溝を切り、その溝にワイヤーを落とし込んで、ワイヤー間隔をそろえるという方法を用いましたが、100GHz帯とり波長が短くなると、ピッチがさらに細かくなるので、溝に落とす方法ではピッチの限界があります。
そこで、研磨した棒に直接巻く方法で開発をすすめることにしました。最初の方法より精度が悪くなりますが、将来のサブミリ波用WG製作技術のために、あえてこの方法をとりました。



 金属線には一定の張力をかけます。ワイヤーグリッドはこのようにして金属線を巻いた面に、固定用の枠を接着し、巻き枠から切り離します。この方法では一度に4枚のワイヤーグリッドを作ることができます。
 ワイヤーグリッドは金属線に張力をかけておかないと、となり同士引き合って、間隔の精度が損なわれます。サブミリ波領域では直径10μm〜20μmの金属線を用います。このような細いもので十分な張力を得るには高張力の素材が必要です。
 我々は、この金属線にタングステンワイヤーを用いました。タングステンワイヤーは高い張力に対し伸びが少なく、引張り強度も高いので、このような目的にはぴったりです。


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ワイヤーグリッド製作方法の変遷


  1. 1,100GHz帯WGの製作(1992年秋の天文学会で発表)
    • 汎用旋盤を用い、送り機構によってあらかじめ溝を切った棒を巻き枠とし、同じ送りでワイヤーを送り出す方法により、ワイヤー直径50μm、間隔200μmのWG製作に成功
    • 接着剤に、シアノアクリレート系を使用、ワイヤー張力が失われず、常温では問題なし
    • テンションコントロールにパーマトルクを使用、安定したワイヤー張力を得る
  2. サブミリ波帯WGへの挑戦(ワイヤー直径20μm、間隔80μmのWG試作、1993年)
    • これまでの巻き枠の棒に溝を切る方法ではうまくいかない
      • ピッチ80μmの溝がうまく切れない
      • 溝に同期させてワイヤーを送り込むことができない
    • 溝を切らずに巻く方法で試作
      • ワイヤーの撚れや僅かな埃・ゴミ等で精度が悪くなるが、10μm程度には巻ける
      • 固定枠に移す際に失敗の連続、ワイヤー張力によって切り取るときに破損する個所ができる
  3. 巻き枠の改良(1996年)
    • 巻き枠に張力を緩める機構を付加
      • 切り取りの失敗はほとんどなくなる
    • 接着時の問題
      • 接着時、置き直しなどをしていると、ワイヤー同士がくっついたり、寄ったりして、精度が悪くなる
  4. NC旋盤による製作(2000年)
    • NC旋盤の送り機構なら精度が良いと考え、NC旋盤で巻いてみる
      • 回転速度を早くしすぎ、ワイヤー送り出し機構が機能せず失敗
      • 回転が遅い場合の往復台の送りにスティックスリップが生じ、精度悪く失敗
  5. 高速旋盤による450GHz帯WGの試作(2001年3月)
    • 高速旋盤(江黒GL−120、送り精度±3μm)による試作
      • ワイヤー直径20μm、間隔70μmのWG試作、巻き枠上での精度はσ=10μm
      • 接着工程で精度悪化
  6. 接着用治具の考案(2001年6月)
    • 接着工程における精度悪化の原因を特定する
      • 接着時の横ずれが原因と判明
    • 横ずれの起きない接着用治具を考案
      • 板バネを用いた接着用治具によって大幅に改善できた
  7. WG専用巻き取り機の製作と、専用機によるWGの試作(2002年6月〜)
    • WG専用巻き取り機の製作
      • 900x600の定盤の上に主軸回転機構とミクロン精度の縦送り機構を設けた「WG専用巻き取り機」を製作
      • 線径50μm、間隔200μm、有効径70mmのWGを試作
      • 新たに接着剤の強度不足が判明
      • 新たにワイヤー送り出し機構の問題点が判明
    • 有効径120mm、100mm、80mmに対応する新たな巻き取り枠を製作(2002年12月)
      • 線径20μm、間隔60μm、有効径50mmの小判型WGで間隔精度σ=20μm
    • WGの偏波特性を測定
      • 反射と透過の角度依存性を測定、偏波特性を確認したが弁別比測定できず
    • ワイヤー繰り出し機構を改善(2003年5月)
      • 線径50μm、間隔150μm、有効径120mmの円形WGでσ=8〜12μm
  8. 低温用WGの開発(2001年2月〜)
    • 瞬間接着剤によるWGの冷却試験
      • 液体窒素による冷却ではもたないことを確認
    • 低温用接着剤(STYCAST-2850GT)によるWGの試作
      • 接着過程で、接着剤の粒状性が荒く、精度を損なうことが判明
      • 液体窒素による急冷でも接着部分の隔離のないことを確認
    • インバー合金によるWGフレームの製作と、冷却試験
      • インバー合金とSTYCAST-2850GTの接着の強度を確認
    • STYCAST-2850FTによるWGの試作
      • 線径50μm、間隔150μm、有効径120mmの円形WGでσ=12μmを実現


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問題点の整理


  1. NC旋盤での失敗(専用の巻き取り装置を考える場合、これはよい教訓となった)

     NC旋盤の送り機構を使えば良い精度で巻けるのではないかと考えましたが、うまくいきませんでした。
     その原因は、NC旋盤の送り機構の制御方法にあります。
     往復台の送り精度は親ねじの回転角度によって制御されています。
     ワイヤーグリッドを巻くときの回転数(10rpm)では、往復台の動きにスティックスリップ現象が発生しました。
     ちなみに、NC旋盤(ワシノLGシリーズ)低速領域(10rpm)での往復台送り精度は、20〜30μmのスティックスリップ現象を観測、高速旋盤(江黒GL−120)でのスティックスリップ現象は2〜3μmで納まっていました。
     主軸スラスト方向の誤差は10μm以上あったので、これを3μm以下になるよう調整しています。

  2. 巻き枠から固定枠に移す際の精度の低下

     巻き枠(ワイヤーを等間隔に巻いた)に、接着剤を塗布した固定枠を乗せます。
     このとき、固定枠が僅かでも横に動いたりすると、巻き枠に巻かれたワイヤーと固定枠の間で摩擦が生じたりしてワイヤー間隔の精度を低下させます。
     この問題を解決するには、接着時に、固定枠と巻枠を動かないように固定する治具が必要です。

  3. 巻き枠にワイヤーを巻いていくときの問題

     ワイヤーの断面形状がいびつであったり、ワイヤーに撚れができているので、4本の支柱上でワイヤーがずれてしまいます。
     このずれを無くすために両面テープを介して巻いた結果、線径20μm、間隔70μmで、間隔精度±10μmを得ました。
     この両面テープを薄いものにすると、更なる精度が期待できます。
     ワイヤーは適当な張力をワイヤーにかけながら巻く必要があります。このとき、ワイヤーが細いと張力を安定してかけることが難しくなります。制御する張力にふさわしいパーマトルク(パッシブ型トルクコンバータ)(小型のもの)に交換する必要があります。

  4. 低温用接着剤の評価

     現在使用している接着剤はThreeBond-1735です。この接着剤は低温では使えません。
     ALMAでは受信機の低温側で用いるものもあるので、低温用ワイヤーグリッドの開発は重要です。
     低温で評価の高い接着剤STYCAST-2850GTによる接着強度の評価と、温度サイクルを与えた場合の耐剥離強度を評価する実験を行なう必要があります。

  5. 試作品の電波による評価

     我々の開発したワイヤーグリッドを天文台他で実際に使用してもらい、電波での性能を評価していきます。
     特に、ワイヤーの間隔精度と偏波特性の関係がわかれば、間隔精度を測定しただけでワイヤーグリッドの性能を保証できるので、今後大量生産することを考えると重要な課題です。


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サブミリ波用ワイヤーグリッドの試作−その1−


 江黒の精密旋盤(GL−120型)を用いてサブミリ波用ワイヤーグリッドを試作しました。
 以下の写真はタングステンワイヤーを巻き枠に巻いているところです。

正面から 左前方から

 この試作によって得られたワイヤーグリッドの精度を以下に示します。

巻き枠でのワイヤー間隔の精度 固定枠に移した時の精度

 ワイヤー間隔は金工室の工場顕微鏡で測定しました。




試作品を天文台の受信機に搭載し、性能試験をしています。




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ワイヤー巻き取り機の設計


 800GHz帯のWGを実現しようとすると、ワイヤー径15μm、ピッチ70μmという、非常に細かいものとなります。
 精密旋盤を用いたWGの試作では、旋盤の主軸スピンドルのスラスト方向のがたつきが、調整しても3μm程度あるので、これ以上の精度を実現しようとすれば、専用のスピンドルを用意しなければなり増せん。
 今回のWG製作技術開発では、この点を重視し、これまで旋盤を利用してきた方法を根本的に改め、専用の巻き取り機を製作することとしました。

 巻き取り機の基本仕様を以下に示します。

項  目 これまでの値 巻き取り機の仕様
主軸回転数 (rpm)20、401〜60
スラスト方向の主軸精度(μm) 10 0.2
主軸の振り (mm)140260
送り長さ  (mm)200200
送り精度  (μm)  5 0.5


 巻き取り機の構成を以下に示します。

  1. 主軸
    工作機械用スピンドル及びACサーボモータ
  2. 主軸チャック
    7インチスクロールチャック
  3. 主軸モータ
    減速比1:50程度のギアヘッド付きACサーボモータ
  4. ワイヤー送り機構
    一軸送り機構ストローク200mm、精度0.5μm

 これらの機構を900x600の定盤上に配置します。
 この他に、WGの巻き枠から固定枠に写し取るときの治具などもこの定盤に取り付けられるようにします。
 現在、この設計を進めています。


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大まかに組みあがったワイヤーグリッド巻き取り機(2002年10月)


 2002年10月12日、昨年より準備していた「ワイヤー巻き取り機」はようやく大まかな部分の組立を終了しました。
 全体の構成は、900mmx600mmの定盤をベースに、主軸をNSKの精密ボール盤スピンドル、ワイヤー送り機構の直線案内機構をTKHのスライドユニットが乗り、制御部分は仮配線です。
 主軸と直線案内の駆動はハーモニックギア+ファインステップモータ(オリエンタルモータ)、制御はPLC(キーエンス、KV−700)で行ないます。

 以下に、仮組状態の「ワイヤー巻き取り機」の写真を掲載します。
新ワイヤー巻き取り機(正面)巻き取枠と送り機構主軸の駆動部分


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ワイヤー巻き取り機の試運転


 この「ワイヤー巻き取り機」の試運転は、11月12日、ワイヤー径50μm、ピッチ200μmにセットして行ないました。その結果は、途中でワイヤーが外れてしまい、中断しましたが、期待通りの動きを実現できています。ワイヤーが外れる現象は初めての経験でしたが、ワイヤーボビンの幅が広くなって、斜めからワイヤーが繰り出されたときに外れたので、それを修正する機構を、ワイヤー繰り出し部に追加しました。  以下の写真は、ワイヤー巻き取り機の試運転の模様と、枠に巻かれた状態、横ずれ修正機構付きワイヤー繰り出し部の写真です。
巻き取り機の試運転(11月12日)巻き取り枠に巻かれたワイヤー
 この間の試作において、新しく購入したワイヤー(50μm)を使ったが、ワイヤーボビンの幅が広くなって、両サイドからワイヤーが繰り出されるときに、精度不良が発生するというトラブルが発生しました。このトラブルを解消するため、ワイヤー張力を様々に変えてみましたが改善されず、新たに、接着部分が剥離するという問題も発生しました。
 そこで、とりあえず、接着剤について再検討することとしました。


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接着剤のスタディ


接着剤の剥離


 前項で紹介した通り、張力を変えて試験していたときに作ったWGが接着部分で次々に剥離するという現象が現れました。接着剤の強度に付いては、すでに10年以上前に試験済みだったので、接着剤の管理が悪くて接着強度が得られなくなったのではないかとも考えましたが、あれから時間が経過していることもあり、改めて接着剤の評価を行ないました。

ワイヤーの剥離 剥離部分の拡大写真



低温用接着剤の試験


 接着剤の評価では、低温用接着剤として期待できるSTYCAST-2850GTも同時に試みました。
 結果は、同じThreeBondでも、1735より、1737や1738の方がより良好であることや、STYCAST-2850GTが低温でも十分強度を持っていることを確認できました。
 しかし、STYCAST-2850GTは粒状性が荒く、せっかく精度よく巻かれたワイヤー間隔を台無しにすることもわかりました。
 STYCAST-2850にはFTという型番があって、GTより粒状性がよいと聞いていましたので、さっそく確認したところ、GTよりは格段に良くなることがわかりましたが、依然として、粒状性の問題は残っています。

アルミフレームの冷却試験 インバーフレームの冷却試験

 冷却方法は、発泡スチロールで断熱した容器の底にWGを置き、直接液体窒素を容器に注ぐというもので、WGを液体窒素温度まで急激に冷やすというもっとも厳しいものです。
 この試験の結果、アルミフレーム、インバー合金フレームとも接着剤の剥離は認められず、低温での接着強度や熱変化による割れなどの問題は解決されましたが、タングステンワイヤーが伸びてワイヤー間隔の精度を大きく損なうという問題が発生しました。
 次回は、スタイキャスト接着方式のWGについて、熱変化速度の遅い方法で冷却試験を行ないを行い、実用性を確認したいと思います。


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ワイヤー繰り出し機構の改良


 ワイヤーボビンを後方に下げ、ボビンの両サイドでも繰り角度が大きくならないようにしました。
 同時に、幅の広いボビンから細いボビンに巻き替え、両サイドの条件を緩和することにしました。
 その2点の改善は、結果は良好で巻き取り精度が格段に向上し、新方式にしてから、初めて実用精度を達成(接着用治具の改善でも述べました)しました。

新ワイヤー繰り出し装置 新方式で完成したWG 新方式WGのモアレ干渉縞

 以下に、新方式で製作したWGの精度(ワイヤー間隔の度数分布)を示します。誤差は、σ=8〜12μmの範囲に収まっており、目標としていた間隔の10%以内は達成しました。
特に、スタイキャストで接着したものの精度悪化を懸念していましたので、今回の結果に満足しています。

完成したWGの精度 STYCAST接着WGの精度


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偏波特性の測定


 新しい方式で作ったWGの偏波特性を実際に測定しました。
 A研で測定できるのは、100GHz帯であなので、改めてワイヤー径と間隔の関係を評価し直した結果、直径50μmのワイヤーならば150μmの間隔が最適との結論を得ました。
 こうしたことから、今後、ワイヤー径と間隔の関係は、1:3の比率で製作することにし、100GHz帯のWGの試作を重点的に行ないました。
 測定の結果は、透過、反射特性とも定性的には確認できましたが、回転角度による反射・透過パターンが対称でないことや、電波出力が不足して反射・透過のわずかな差を正確に測定することができなかったので、これは次の課題となりました。

偏波特性測定の全景 偏波特性測定でのWGのマウント 偏波特性を測定したWGの精度 反射及び透過(偏波)特性


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接着用治具の改善


 初期の接着用治具は板バネを用いたもので、横に大きく、取り扱いにくい。そこで、原理的に同じになるよう、コイルバネを用いた治具に作り直しました。その結果、占有面積も減り、取り扱い易さが向上しました。
 接着時の精度悪化をもたらす横ずれは、新しい治具においても発生しません。
 専用の巻き取り装置+ワイヤー繰り出し機構+新巻き枠+新接着治具によって製作したWG(線径50μm、間隔150μm、有効径120mm)の精度は、σ=8〜12μmとなって、目標の10%以内に収ままりました。

新接着用治具の全景 新接着用治具での接着作業 切り離し作業


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サブミリ波用WGの試作−その2−


 サブミリ波用として、線径20μm、間隔60μmのWGを新しい装置で試作しました。

 20μmのタングステンワイヤーは50μmのワイヤーに比べて格段に切れ易く、張力調整機構の低いレンジを使わなければならないので不安でしたが、とにかく作ることにしました。
 試作第一回目では、巻き取りの張力20〜50gで、最大枠径110mmの巻き取り治具を用いて巻き取り作業を行ないました。
 目視ではよくできていましたので、さっそく接着作業へと進みました。接着工程に行く前に、線のよじれや操作ミスで間隔精度を損なうという問題が発生しました。この問題は100GHz帯のWGでも確認したことですが、間隔が狭くなった今回では、相当なダメージとなりました。
 巻き取り作業のあと、直ちに接着工程に移行する必要があり、かつ取り扱いがデリケートであるという印象です。

 接着用治具は、新しい巻き取り枠にあわせて、新しく作り直したもので、従来のものよえい小型化、操作性も向上しました。
 接着作業では、高さをあわせるスペーサーの設定が悪く、最後に横向きの力が加わってしまうために、2面の接着において精度を損ないました。他の2面は比較的良好に接着でき、巻き取り精度をある程度維持できたのではないかと思います。
 最後の1面は、両サイドに精度の悪いところが集中し、実用部分のみ間隔誤差を評価すると、σ=4μmを実現しています。

 二回目の試作では、巻いた後で精度を損なわないよう、巻き取り枠に一工夫して、張力をゆるめて巻きました。この方法では平均的に誤差が大きくなりましたが、後の取り扱いが非常に楽で、実用的ではないかと思います。

 以下に第一回目と第二回目のWGの間隔精度を示します。

第一回目最悪値:σ=17μm 第一回目最良値:中央部σ=4μm 第二回目4面ほぼ同じ:σ=8μm


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サブミリ波用WGの試作−その3−


 間隔の精度を損なう様々な要因を整理すると、以下のものが考えられます。

1、巻き取るときの誤差
  1−1、巻き取り機そものの誤差
  1−2、金属バーの面粗さによって生じる誤差
2、巻き取った後の誤差
  2−1、イヤーのねじれ応力等による変位
  2−2、慮の接触等による変位
  2−3、着時の応力による変位
  2−4、着剤による変位

今回の試作は、1−2の巻き枠金属バーの表面の問題に絞るために、金属バーの表面にセロテープを貼り、ワイヤーを巻いてみました。
巻いた直後は非常にきれいで等間隔のように見えましたが、しばらく時間がたつと、間隔が徐々に変化し、精度が悪くなっていくように見えました。
巻き取り後、1週間後に接着を始めましたが、初期に貼ったものの方が精度がよいという傾向もわずかではありますが見て取れます。
接着工程で、100GHz帯のWGでは問題とならなかったことが精度を悪くしている可能性も見えてきましたので、今回の経験をもとに、再度挑戦したいと思います。

今回の巻枠は有効径108mmがとれる大きいもの(難しい方)を選んで行ないましたので、前回より精度が悪くなったように見えます。

有効径108mm、σ=9.7μm


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