遠赤外線干渉計望遠鏡(FITE)の技術開発
2007年3月15日公開、業務遂行に伴い順次公開していきます。 by kawai
気球に搭載する遠赤外線干渉計望遠鏡(FITE)の技術開発について紹介します。
この望遠鏡は2007年ブラジルにて気球を使った観測を目指して、現在開発を急いでいる物です。遠赤外線干渉計を気球に搭載して、高度40kmで観測を行う予定です。
技術業務として依頼された経緯
2005年の末ごろ、気球懸垂機構について基本設計や加工方法などについての技術的なアドバイスを求められたことが発端で、その後、組立・調整を行い、気球搭載硬X線観測(SUMIT)の懸垂機構として用いられました。
このときの基本設計は、今までの気球実験で用いたものを参考に担当の院生が行った。これに金工室のアドバイスを考慮して、シャフト、モーター取り付け部分、カバーなどを院生が詳細設計し、外注業者に部品製作を依頼したようです。2006年春頃に第一号機(SUMIT用)として組立てほしいとの依頼が金工室に持ち込まれました。
これと前後して、当該研究室からプロジェクトへの協力要請があり、プロジェクトの概要から技術的な問題の整理を行いました。
気球に関する技術業務は、SUMITのゴンドラ、姿勢制御用のフライホイールやその軸受け機構、鏡筒の高度軸駆動機構、鏡筒組立時の微調整や追加加工など、組立作業が進む中で五月雨的に金工室に依頼されていました。この関連はSUMITのホームページでも紹介します。
技術的な意思統一の重要性
FITEやSUMITなどの大掛かりな実験や装置では、基本設計の理解と技術的な意思統一がたいへん重要です。しかし、残念ながら両者とも実際の業務依頼が個々バラバラとなり、担当したもの同士の意思疎通も不十分のまま、開発作業が進んでしまいました。
懸垂機構一号機の組立以後、FITEのゴンドラ本体や干渉計を形成する2つのミラーを制度よく設置〜移動させる機構などの構造に関する技術的なアドバイスを求められたり、工作実習の課題として持ち込まれた3Dジャイロの架台、フライホイールの軸受け機構など、個々に技術職員が対応した結果、金工室としての対応に一貫性を欠いてしまいました。
この結果、技術的に矛盾がおきたり、要求される仕様を満たすことが困難な部分もできてしまうなど、問題が多数発生しています。
この問題は、金工室の移転を機に、窓口の一本化や設計思想を一貫させる努力を続け、技術的な意思統一を進めているところです。しかし、幸いなことに、ゴンドラの大きな構造や軸受け機構、光学系など重要な部分で基本設計を早い段階から詰めることができたので、すでに進んでしまった部分の問題点を修正しながら、全体の作業を進めているという状況です。
現在、金工室には部分的にいくつかの技術相談や技術開発業務が寄せられています。その主な項目を挙げます。
関連するホームページを紹介します。
ご意見、質問等はこちらまでお願いします。
ゴンドラ懸垂機構の組み立て・調整
気球とゴンドラ(観測装置を搭載)の間に、気流の乱れによる「よじれ」を戻すための機構を備えた懸垂装置を入れます。
この懸垂装置は、ゴンドラから気球上部への電源供給を行うためのスリップリングを入れています。
「よじれ」を防止するための回転防止機構は、サーボモーターとクラッチによって高速回転体の慣性を利用したものです。
懸垂機構はゴンドラの総重量をこの一点で受け、且つスムーズに回転できることが大切です。もしこの部分で回転抵抗があると、「よじれ」を戻す機能が正常に働かず、観測装置(望遠鏡)の姿勢制御が困難となるので、この部分の調整はたいへん重要です。
外注加工ではできない細かい追加作業が多くあることや、クラッチの軸出力が同芯精度を考慮されていない設計になっているので、写真のような神経質な調整が必要です。この部分はインローになっていないので、横からの衝撃によって芯がずれる可能性があります。
フランジにベアリングを挿入 | スリップリング軸の精度検査 |
部品組み付けの偏芯量測定 | 懸垂機構主要部組み付け後の精度測定 |
 |
 |
 |
 |
フランジへの追加加工 | クラッチへの追加加工 | 組立完成した懸垂機構 |
 |
 |
 |
このページの最初に戻る
姿勢制御用フライホイール
姿勢制御用のフライホイールとジャイロはすでに完成し、テストフレームに搭載して動作実験を行っています。
この部分は工作実習の製作課題として対応した部分なので、本組立のときに手直しが必要になる可能性があります。
フレームとフライホイール | 錘移動型姿勢制御のリニアガイド | フライホイールとサーボモータ |
 |
 |
 |
このページの最初に戻る
干渉光学系
干渉計を構成するには、二つの同じ光学系を持つ望遠鏡を、同じ天体に向け、信号を干渉させます。このとき、二つの光学系にわずかな違いが生じると干渉はおきません。従って、干渉計を成功させる鍵は光学系にあります。
FITEの干渉光学系は、左右対の平面鏡によって導かれた2つの光は2枚の方物面鏡でクライオスタットの中にある観測装置(干渉計)に導かれます。クライオスタットの内部は4Kに冷却し、検出器の感度を維持すると共に、十分暗い赤外線の背景を形成します。4Kに冷却された基準面(コールドプレート)に、干渉光学系を形成するのですが、最終的にこの光学系の組立・調整によって干渉現象を実現することになります。従って、この部分の調整部分と機械座標による固定部分とをしっかり分けて考えることが必要です。機械加工の精度で追える部分の加工精度については、機械加工の限界や制限との関連をよく理解し、加工精度を決めなければなりません。この部分は、今回の作業で、三次元測定器のほかに、ブロックゲージとアクセサリ、サインバー、直角基準などの古典的なツールが重要となります。
ミラーを支える構造物(材質はA6063)を外注加工するのですが、荒加工の時点で一度引き取り、液体窒素とお湯による熱サイクル(約300℃)を4〜5回加えて、内部ひずみ除去を試みました。熱処理する前と後での三次元測定器によく各部の幾何交差を比較したのですが、有意な変化は認められませんでした。このとき、ついでにサインバーによって角度(45°)を形成した場合の幾何公差を測定したところ、原理どおり十分な精度であることを確認しました。
熱処理前のサポート部品 | 液体窒素にて冷却 | お湯にて過熱 | 液体窒素とお湯に交互に入れる |
 |
 |
 |
 |
このページの最初に戻る