冷しばめによる高圧力容器の製作

名古屋大学理学部技術部 井上晶次



1.はじめに


 金属磁性研究室から極低温、高圧力下(目標約2万気圧)での物性測定用に目的に合わせて形状の異なる数種の高圧力容器を製作した。
 高圧力発生の方法は、図1に示すように、シリンダー内のテフロン容器に試料と圧力媒体を充填し、外部の油圧プレスでピストンに荷重をかけ、テフロン容器と圧力媒体の体積を縮小させ高圧力を発生させる。ここで重要なことは、高圧力発生容器の材料が高圧力に耐えること、磁化率測定にあたっては、容器の磁化率が試料より小さいことである。したがって、鉄系の材料は使用できず銅ベリリウムを使用した。
 この方式の高圧力発生の方法は文献1に詳しく述べられているように、数回高圧力を発生させるとシリンダー内壁が変形し、使用できなくなる。銅ベリリウムの材料でどの程度の高圧力を発生できるかは、銅ベリリウムの引張り強さ14000kg/cm2の圧力が限界である。しかし、実験では銅ベリリウムの変形を覚悟して20000 kg/cm2を目標にしている。このことから、耐久性のある高圧力発生容器を製作するため、冷やしばめによりシリンダー内壁に圧縮応力を発生させ、高圧力によって生じる引っ張り応力を減少させる方法でシリンダー材料を製作した。これは焼きばめの原理と同じ考え方である。


2.冷やしばめで発生する応力


 冷やしばめで発生する応力は、材料力学の参考書などから計算によって求めることが出来る。
 図2に円周方向の応力分布の計算結果を示す。図2◇は内径6mm、外径12.02mmの軸を液体窒素で冷却し、内径12.00mm外径25mmの円筒に挿入した場合の応力分布である。内壁に約3000kg/cm2の圧縮応力が発生する。図2□は冷やしばめをしていない内径6mm,外径25mmのシリンダーに15000kg/cm2の内圧を発生させた場合の応力分布である。シリンダー内壁に約17000kg/cm2の引張り応力が発生する。図2△は冷やしばめを行なった図2◇の応力分布のシリンダーに15000kg/cm2の内圧を発生させた場合の応力分布である。図2□と図2◇の和となり、内壁に約14000kg/cm2の引張り応力が発生する。  この計算結果から、冷やしばめを行なったシリンダーでは冷やしばめを行なっていないシリンダーに比べ、内壁に生ずる最大応力を約2割減少させることが出来る。
 図3に実際に行なった冷やしばめの外筒と軸の形状をを示す。軸には温度計を取付けるためのM3のネジ穴、挿入時にチャックにつかむためSUSに軸が取付けてある。Dは軸の外径、dは外筒の内径である。その寸法を表1に示す。

   表1

番号D(mm)d(mm)D−d(mm)
12.0212.000.02
12.0312.000.03




3.冷やしばめの方法


 冷やしばめで重要なことは、常温にある外筒と冷却した軸の中心を正確に一致させること、冷却した軸の温度上昇を少なくするために短時間で行なうことがである。
 外筒と軸の中心を正しくに合わせるために図4に示すように卓上ボール盤を使用し、軸の冷却は液体窒素を使用した。軸には温度を測定するために銅・コンスタンタン熱電対温度計を取り付け、外筒には形状の変化を測定するためにひずみゲージを張り付けてある。
 失敗例その1:図5に示すように、外筒と軸の心出にボール盤のテーブルにチャックを使用し、且つチャックが移動しない様に万力で強固に固定して軸を挿入すると、外筒、軸のわずかな傾きに対して外筒、軸ともずれることが出来ないため、一部分しか挿入できづ失敗した。

 失敗例その2:図6に示すように、軸をチャックに取付けた状態で冷却を行なった場合、チャックからの熱伝導が大きいため軸を十分冷却することが出来ず一部分しか挿入できず失敗した。
 成功例:図7に成功例を示す上に述べた失敗の経験から、外筒と軸の心出をした後外筒はボール盤のテーブルに固定せず、軸の冷却は液体窒素(写真下部の白い容器)で冷却後ボール盤のチャックにすばやく取付け挿入することにより成功した。


4.まとめと考察


 冷やしばめの軸を冷却し外筒に挿入するまでの軸の温度変化の測定結果を図8に示す。▲は軸をボール盤のチャックに取付け液体窒素で冷却し(図6)冷却終了後の温度変化である。この場合冷却終了後約2秒で70℃温度(図中のD点)が上昇する。●は液体窒素容器から軸を取り出し空気中に放置した場合の温度上昇である。チャックに取付け冷却した場合より温度上昇は緩やかであることがわかる。◆は軸を液体窒素に完全に浸し冷却後図中A点で取り出し、約1秒後にボール盤のチャックに取り付け冷やしばめした場合の温度上昇である。チャックに取り付けご冷やしばめ修了までの時間は約0.7秒である。
 冷やしばめを行なう場合の留意点をまとめると以下のようになる
・軸と外筒の中心を合わせ挿入する、そのためには卓上ボール盤を利用すると便利である。
・外筒は固定せずフリーにしておく、固定するとわずかな傾きにより挿入できなくなる。
 ・軸はチャックした状態では冷却し難い。別容器で軸を冷却しチャックするほうが短時間で挿入出来る。


5.文献


1)毛利信男 高圧下の電気的測定 応用物理 第62巻 第2号(1993) p170−171

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