原子核乾板飛跡解析用ピエゾステージの開発

装置開発室 石川秀蔵
物理F研  中野敏行


1・はじめに
 これまで原子核乾板による素粒子反応飛跡の解析は、XYステージにCCDカメラ付きの光学顕微鏡を用いておこなわれてきた。今回、新たな国際共同研究プロジェクトの立ち上げに伴い、解析時間の大幅な短縮が必要となった。これに応えるためピエゾステージを組み合わせた新たな光学系を開発することになった。ピエゾ素子駆動のステージは市販されているが、対物レンズが取り付けられ小型で高速駆動できるものがないため、新たに開発した。以下に試作したピエゾステージについて現状報告をする。

2・装置の概要
 ピエゾステージは、対物レンズを100Hzの速度で100μm以上駆動できることを目標とし、市販品を参考に設計した。概念図を図1に示す。ピエゾ素子(最大変位35μm)は3.5倍の拡大てこにより、移動ステージに約120μmの駆動を与えることが出来る。移動ステージは、いわゆる平行バネの原理を応用したものであるが、より直線性が優れるように折り返しの形状となっている。ピエゾの戻りは予圧バネによりおこなわれ、予圧力はピエゾの駆動力100Kgの30%とした。移動ステージの変位量は差動トランスにより検出される。

3・装置の製作
 試作したピエゾステージの写真を図2に示す。材質は軽量化を図るためA7075を用い、拡大テコ部および平行バネ部の溝加工はワイヤ放電加工機でおこなった。加工した溝幅の精度が±0.02mm以下になるようにセカンドカットをした。

4・評価とまとめ
 はじめに高速駆動試験をおこなった。移動ステージに対物レンズと同重量のダミーを取り付け、ピエゾに最大振幅で100Hzの駆動電圧を与えて、作動トランスからの信号を測定したところ、ピエゾ駆動に同期した100Hzの信号が検出された。この結果、100Hzの高速駆動は問題ないことが分かった。
 次に移動ステージの直線性を測定した。測定方法は、ステージ下部から照射した光を、対物レンズの代わりに取り付けた1μmのピンホールに透過させ、顕微鏡上のCCDカメラでスポット光の座標値を演算して求めた。測定結果を図3に示す。これにより移動ステージの直線性は0.3μm以下であることが分かった。
 今後の課題として、ステージの直線性は0.1μm以下が望ましいので、これを改善する必要がある。その他、再現性や耐久性など実用化に向けた各種の試験をおこなう予定である。